Pronunciation
日本人が苦手な英語の音と、直す順番
40個の音を均等に練習しても通じるようにはなりません。日本語話者の発音で通じなさを壊しているのは、ごく一部の子音です。どの音から手をつけるか、なぜ口より耳が先なのかを、研究の数字とともに整理しました。
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日本語話者の英語で、通じなさを実際に壊している音は、それほど多くありません。日本人40名の発話を母語話者に評価させた研究では、理解しにくさを予測したのは機能負荷の高い子音の置き換えだけでした(Suzukida & Saito 2021)。/l/ を /r/ で言う、/v/ を /b/ で言う。この種の誤りです。
一方で、多くの人がまず気にする th は、目立つわりに通じなさを大きくは壊しません。直感とは逆ですが、優先順位はこの順で決めるほうが速く通じるようになります。
この記事では、どの音から直すか、なぜ口より耳が先なのかを、研究の数字とともに整理します。もとにしたのは ShadoRep を設計するときに作った論文の台帳です。
通じなさを壊しているのは、ごく一部の音
音の誤りには重いものと軽いものがあります。この重さを測る考え方が機能負荷(functional load)です。単語の区別にたくさん使われている対立ほど、間違えたときの実害が大きい。/l/ と /r/ の取り違えは right が light になりますが、/θ/ を /s/ で言っても、文脈から意味が壊れることはほとんどありません。
英語話者に聞かせた実験でも、高機能負荷の誤りは理解度を下げ、低機能負荷の誤りはほぼ影響しませんでした(Munro & Derwing 2006)。日本人学習者を対象にした再現でも、同じ結果が出ています(Suzukida & Saito 2021、O’Neal & Latham 2023)。
だから、40個の音を均等に練習するのは時間の無駄です。目標も、ネイティブそっくりの発音ではありません。通じることを基準にする、というのが発音指導の分野の主流の立場です(Levis 2005)。
直す順番
機能負荷(FL)と、日本語話者の苦手さを掛け合わせて並べるとこうなります。
| 優先度 | 音 | FL | なぜ |
|---|---|---|---|
| 最優先 | /r/ と /l/ | 10 | 日本語話者の通じなさの代表。まず耳がボトルネックになる |
| 最優先 | /iː/ と /ɪ/ | 9 | sheep と ship。長さではなく音質の差 |
| 最優先 | /v/ と /b/ | 7 | 日本語に /v/ がない。実測で通じなさを壊している |
| 高 | /æ/ | 8 | カタカナの「ア」に潰れる。出現頻度が高い |
| 中 | /s/ と /ʃ/ | 6 | see が she に寄る。後ろの母音しだいで崩れる |
| 中 | 語末の有声子音、子音の連続 | — | 母音を足してしまう。音というより現象の問題 |
| 低 | /θ/ と /ð/ | 4 | 目立つが、通じるかどうかへの影響は小さい |
| 低 | /uː/ と /ʊ/ | — | fool と full。優先度は最後 |
th を最後に置くのは、研究の帰結です。学習者の実感とは逆なので納得しにくいところですが、限られた練習時間をどこに置くかという話であって、th を一生直さなくていいという意味ではありません。
口より耳が先
日本語話者が英語の音を外す原因は、口が動かないことより、その音が別の音として聞こえていないことにあります。
子音が連続する語では、音として存在しない母音が聞こえます。実験で母音を消し去っても、日本語話者は7割以上の試行で「母音があった」と報告しました。同じ実験でフランス語話者にはこれが起きません(Dupoux et al. 1999)。しかも、その語をカタカナ語として知っている場合(homesick を「ホームシック」として覚えている、など)、記憶そのものが母音挿入を強めます(Nomura & Ishikawa 2018)。
耳の側で起きていることを、口の解説では直せません。順番は逆にします。
証拠もはっきりしています。日本語話者に聞き分けの訓練だけを課し、発音練習をいっさいさせなかった実験で、/r/ と /l/ の産出までネイティブ評価で改善しました(Bradlow et al. 1997)。3か月後にも、知覚と産出の両方が保たれていました(Bradlow et al. 1999)。
聞き分けの訓練で最も実証が厚いのは HVPT(高変動の音声知覚訓練)です。複数の話者の声で、一音だけ違う語のペアを聞き分け、その場で正誤を知る。79研究のメタ分析で知覚の効果量は g=0.92、効果は数か月保たれ、訓練に出てこなかった話者や単語にも般化しました(Uchihara, Karas & Thomson 2025)。話者は1人より複数のほうが確実に良い、という点も出ています。
同じ音でも、語のどこにあるかで別物
「/s/ が苦手」という捉え方では練習になりません。音は、抽象的な音素ではなく、語の中の位置や前後の音とセットで身につくからです(Flege 1995、Flege & Bohn 2021)。
日本語話者に語頭の /r/ と /l/ の識別を訓練した実験では、語頭だけが改善し、語中や子音連続の中には転移しませんでした(Logan, Lively & Pisoni 1991)。同じ /s/ でも、単体では出せるのに i の前では [ʃ] に寄る(see が she に聞こえる)のは、これと同じ話です。
練習と診断は、どちらも環境ごとに分けます。語頭から始めて、語中、語末の順に広げるのが安全です。子音は母音より、語頭は語中や語末より、通じやすさへの寄与が大きいと言われています(Catford 1987)。
口のコツは、失敗を名指しで潰す
調音の説明は効きます。ただし、教科書のラベルをそのまま渡すと逆効果になることがあります。
例えば /v/ を「下唇を上の歯に当てる(labiodental)」と一般的に教えると、日本語話者は下唇を内側に巻き込みます。「下唇の内側を、上の歯の縁に当てる」まで言い切って、はじめて正しい音が出る(Catford 1987)。母語の癖でどう失敗するかまで踏み込んだ指示でなければ、届きません。
そして、説明を読むだけでは動きません。日本語話者の /ɹ/ を対象にした実験で改善したのは、調音の明示的な指導に修正フィードバックを足した群だけでした。指導のみの群は、音響指標で有意差が出ていません(Saito & Lyster 2012)。逆に、練習に明示的な調音情報を足すと、効果が中から大に上がり、練習に出てこなかった語にも般化しました(Saito 2013)。
自分の音がどう外れているかを、その場で返してもらう仕組みが要る、ということです。鏡の前で舌の位置を確認するだけでは足りません。
音ごとの直し方
最優先の3組から順に、それぞれのページにまとめました。どう間違って聞こえるか、口をどう動かすか、どの語で練習するかまで書いてあります。
- /r/ と /l//r/ と /l/ の違いと直し方舌先をつけるかつけないか。まず耳で分けるところから
- /iː/ と /ɪ//iː/ と /ɪ/(sheep と ship)の違いと直し方長さではなく、緊張をゆるめるかどうか
- /v/ と /b//v/ と /b/ の違いと直し方息が続くか、一瞬で切れるか
- /θ/ と /ð/th(/θ/ /ð/)の出し方と、優先順位が低い理由目立つ音を後回しにする理由と、出し方そのもの
音の前に、リズムで直ることもある
個々の音とは別に、文全体のリズムでつまずいている場合があります。日本語は一音ずつほぼ等間隔で進みますが、英語は強く長い語と、弱く短く流れる語の差で進みます。語尾の子音に母音を足して「グッドゥ」になるのも、同じ癖から来ています。
ここは音を1つずつ直しても解決しません。文をまるごと真似るほうが速いので、シャドーイングが向いています。順番としては、リズムで全体の流れをつかんでから、個々の音を詰めると崩れにくくなります。
ひとつ注意があります。単語を丁寧に読んだときのスコアが上がったことと、会話で直ったことは別です。統制された課題での改善は示しやすい一方、自発的な発話への転移は最も示しにくい部分だと指摘されています(Saito & Plonsky 2019)。点が上がっても、そこは慎重に見てください。
よくある質問
- th の発音は直さなくていいですか
- 優先度は低いです。日本語話者にとって目立つ音ですが、単語の区別にはあまり効いておらず、通じなさへの影響は小さいことが分かっています(Munro & Derwing 2006、日本人171名での再現は O'Neal & Latham 2023)。/r/ と /l/、/v/ と /b/ を先に片づけてから戻ってきてください。
- 発音記号は覚えたほうがいいですか
- 全部は要りません。自分が外している対立だけで足ります。/r/ と /l/ の区別がついていないなら、その2つの記号と代表語を知っていれば練習は始められます。
- どのくらいで直りますか
- 数週間から数か月です。発音の自動採点を使った訓練を集めたメタ分析では、1〜4週で終わった介入の効果はほぼゼロ(g=0.07)でした(Ngo et al. 2024)。逆に、聞き分け訓練の効果は数か月保たれます(Uchihara et al. 2025)。
- ネイティブみたいに発音できるようになりますか
- そこは目標にしません。発音指導の分野では、目指すのはネイティブらしさではなく通じることだ、という考え方(intelligibility principle)が主流です(Levis 2005)。訛りが残っていても、意味が変わらなければ実害はありません。
- 聞き分けの練習は、どうやればいいですか
- 複数の話者の声で、一音だけ違う語のペア(right と light など)を聞いて、どちらかを選び、すぐ正誤を知る。これを繰り返します。話者が1人だけだと、その声にしか効かないので、必ず声を変えてください(Uchihara et al. 2025)。
- 発音アプリの自動採点は当てになりますか
- 単語や短文をはっきり読む場面では当てになります(分節音の効果量 g=0.82、Ngo et al. 2024)。合否だけを返すもの(g=0.50)より、どの音がどう外れたかを返すもの(g=0.86)を選んでください。崩れた発話や弱形では誤判定が出やすいので、練習は単語から始めるのが安全です。
- シャドーイングをやれば発音も直りますか
- リズムと抑揚は直ります。個々の音については、44研究のレビューでも結論が出ていません(Whitworth & Rose 2025)。音を直したいなら、聞き分けの訓練を別枠で足してください。
参考文献
- Munro, M. J., & Derwing, T. M. (2006). The functional load principle in ESL pronunciation instruction: An exploratory study. System, 34(4), 520–531.
- Suzukida, Y., & Saito, K. (2021). Which segmental features matter for successful L2 comprehensibility? Revisiting and generalizing the pedagogical value of the functional load principle. Language Teaching Research.
- O’Neal, G., & Latham, M. (2023). The Functional Load Principle and Intelligibility: A replication with Japanese listeners. Chinese Journal of Applied Linguistics, 46(1).
- Levis, J. (2005). Changing Contexts and Shifting Paradigms in Pronunciation Teaching. TESOL Quarterly, 39(3).
- Dupoux, E., Kakehi, K., Hirose, Y., Pallier, C., & Mehler, J. (1999). Epenthetic vowels in Japanese: A perceptual illusion? Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 25(6), 1568–1578.
- Nomura, J., & Ishikawa, K. (2018). Effects of first language processes and representations on second language perception: The case of vowel epenthesis by Japanese speakers. International Journal of Bilingualism, 22(1).
- Bradlow, A. R., Pisoni, D. B., Akahane-Yamada, R., & Tohkura, Y. (1997). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: IV. Some effects of perceptual learning on speech production. JASA, 101(4), 2299–2310.
- Bradlow, A. R., Akahane-Yamada, R., Pisoni, D. B., & Tohkura, Y. (1999). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: Long-term retention of learning in perception and production. Perception & Psychophysics, 61.
- Uchihara, T., Karas, M., & Thomson, R. I. (2025). High variability phonetic training (HVPT): A meta-analysis of L2 perceptual training studies. Studies in Second Language Acquisition, 47(3).
- Logan, J. S., Lively, S. E., & Pisoni, D. B. (1991). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: A first report. JASA, 89(2), 874–886.
- Flege, J. E. (1995). Second Language Speech Learning: Theory, Findings, and Problems. / Flege, J. E., & Bohn, O.-S. (2021). The Revised Speech Learning Model (SLM-r).
- Catford, J. C. (1987). Phonetics and the Teaching of Pronunciation. In J. Morley (Ed.), Current Perspectives on Pronunciation. TESOL.
- Saito, K., & Lyster, R. (2012). Effects of Form-Focused Instruction and Corrective Feedback on L2 Pronunciation Development of /ɹ/ by Japanese Learners of English. Language Learning, 62(2), 595–633.
- Saito, K. (2013). Reexamining Effects of Form-Focused Instruction on L2 Pronunciation Development: The Role of Explicit Phonetic Information. Studies in Second Language Acquisition, 35(1), 1–29.
- Saito, K., & Plonsky, L. (2019). Effects of Second Language Pronunciation Teaching Revisited: A Proposed Measurement Framework and Meta-Analysis. Language Learning, 69(3).
- Ngo, T. T.-N., Chen, H. H.-J., & Lai, K. K.-W. (2024). The effectiveness of automatic speech recognition in ESL/EFL pronunciation: A meta-analysis. ReCALL, 36(1), 4–21.
- Whitworth, N., & Rose, M. (2025). A Systematic Review of Research on the Use of Shadowing for L2 Pronunciation Teaching. Research Synthesis in Applied Linguistics.