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シャドーイングの効果とやり方
シャドーイングで確実に伸びるのはリスニングです。発音への効果はどこまで言えるのか、教材と速度はどう選ぶのか。ShadoRep の設計に使った論文の台帳をもとに、研究でわかっていることと、わかっていないことを分けて整理しました。
最終更新
シャドーイングで確実に伸びるのはリスニングです。研究の数もそこに集中しています。一方で「発音がきれいになる」は、論文に当たるとまだ言い切れません。44本の研究を集めたレビューでも、流暢さとリズムと聞き取りの改善は一貫して報告される一方、個々の音への効果は結論が出ていないと書かれています(Whitworth & Rose 2025)。
この記事は、その線引きをはっきりさせたうえで、手順と教材と速度の決め方をまとめたものです。もとにしたのは、ShadoRep を設計するときに作った論文の台帳です。数字にはすべて出典をつけ、最後に一覧を置きました。
シャドーイングとは
流れてくる音声を、0.5秒ほど遅れて声に出して追いかける練習です。原稿を読み上げるのではなく、耳から入った音をそのまま口に出します。もともとは同時通訳の訓練法でした。
似た練習と混同されやすいので、並べておきます。
| 練習 | 文字 | タイミング | 主に鍛えるもの |
|---|---|---|---|
| シャドーイング | 見ない | 0.5秒遅れて追う | 音を拾う処理の自動化、リズム |
| オーバーラッピング | 見る | 音声とぴったり同時 | 発音とリズムの型 |
| リピーティング | 見ない | 音声を止めてから | 頭に保持する力、意味処理 |
| 音読 | 見る | 音声なし | 文字と音の対応づけ |
| ディクテーション | 書く | 止めながら | 聞き取れていない箇所の特定 |
この中でシャドーイングだけが、聞くことと話すことを同じ瞬間に走らせます。文字も使いません。逃げ場がないぶんしんどいのですが、耳の処理速度はそこで鍛えられます。
効果の範囲
領域ごとに、研究の厚みはかなり違います。
| 領域 | 研究の厚み | 中身 |
|---|---|---|
| 音を拾う力(ボトムアップ処理) | 厚い | 意味からの推測を封じて音そのものを拾わせる。習熟度の高い群でも低い群でも音素知覚が改善した(Hamada 2016) |
| 流暢さ、リズム、抑揚 | 支持あり | 44研究のレビューで一貫して報告されている(Whitworth & Rose 2025) |
| 一音ずつの正確さ | 結論が出ていない | 同じレビューが分節音への効果を保留にしている。改善の報告もあるが、自己申告に頼るなど設計の弱い研究が混じる |
| 語彙の定着 | 理屈のみ | 音韻ループの言い直しが速く強くなれば取り込みも速くなるはず、という筋道(Kadota 2019) |
「シャドーイングで発音が良くなる」と書いた記事は山ほどあります。研究に当たると、そこまでは言えません。伸びるのはリズムと抑揚で、r と l のような一音ずつの正確さには別の訓練が要ります。この点は後半で扱います。
逆に、リスニングへの効果を疑う理由はほとんどありません。Hamada はシャドーイングを「L2リスニングの筋トレ」と呼んでいます。文字や推測に頼れないまま音を追い続けるので、鍛えられる場所がはっきりしています。
なぜ聞き取りに効くのか
人は聞いた音を数秒だけ頭にとどめ、心の中で言い直しながら保ちます。この保持と言い直しの仕組みを音韻ループと呼びます。シャドーイングは、その心の中の言い直しを、実際の口の運動に置き換える練習です(Kadota 2019)。声に出す以上ごまかせないので、音を取りこぼした瞬間に口が止まります。
もうひとつは気づきです。自分の声をお手本に重ねると、合っていない箇所がはっきり出ます。気づいていないものは直せません(Schmidt 1990)。聞き流しで何も変わらないのは、ここが抜けるからです。
仕組みをもう少し詳しく知りたければ、シャドーイングとは何か、なぜ効くのかに書きました。
手順
研究側で確立している進め方は、文字の助けを一段ずつ外していく形です。
- 何も見ずに聞く。どこが聞き取れなかったかを覚えておく
- 口の中でぼそぼそ追う。音を拾うことだけに集中する(マンブリング)
- スクリプトと訳を読み、内容を確かめる
- 文字を見ながら声を重ね、抑揚を写す(オーバーラッピング)
- 文字を隠して追う。意味だけを頼りに声を出す
- 4〜6回繰り返す
順番の要点は3と4のあいだにあります。内容がわからないまま音だけ追う時間が長いと、口は動いても頭が働きません。逆に、最後まで文字を見たままなら、それはただの音読です。文字を外すところまで行って初めてシャドーイングになります。
Hamada と Suzuki は、この手順を意図的な練習の枠組みで整理し、16の技法に分けています(Hamada & Suzuki 2024)。どの技法を選ぶかで伸びるものが変わるので、音声を流して繰り返すだけの運用では成果が出ません。
教材の選び方
適正は、何も見ずに聞いて7〜8割拾える素材です。スクリプトを読めば8〜9割わかること。この帯より難しいと、聞こえた音を追っているつもりで、知識で穴を埋めているだけになります。まねではなく推測です。
速さの上限は160WPM(1分あたりの語数)を目安にしてください。ニュースの読み上げが150〜170、ネイティブ同士の雑談は190〜230あります(Tauroza & Allison 1990)。最初から雑談の速さに突っ込むと、まず折れます。
もうひとつ、教材の音を選ぶときに気をつけたい点があります。連結や弱形を消したきれいすぎる音声は、練習用としては筋が悪いです。学習者が聞き取れない原因は速さそのものよりも音の変化のほうで、習熟度が低い人ほど打撃を受けます(Henrichsen 1984)。音の変化は丁寧にゆっくり話すときにも規則どおり起きます(Kaisse 1985)。つまり「ゆっくり、ただし連結は残す」音声が現実的な入口です。
速さの決め方
学習者向けの目安として、5つの帯に整理できます。
| 帯 | レベルの目安 | WPM | 錨になる数字 |
|---|---|---|---|
| 入口 | A1〜A2 / 英検3級〜準2級 | 90〜115 | VOA Learning English が約90 |
| 慎重 | A2〜B1 / 英検2級・共通テスト | 115〜145 | 共通テストが約140 |
| 標準 | B1〜B2 / TOEIC・英検準1級 | 145〜175 | TOEIC L が150〜160、TED が約169 |
| 速い | B2〜C1 / TOEFL・IELTS帯 | 175〜210 | インタビューの平均が約190 |
| 会話 | C1以上 / 本物の雑談 | 210〜240 | 会話の平均が約210 |
遅くすればするほど効く、ではありません。日本人の下中級を対象にした実験では、100WPMと150WPMで理解に差が出ず、200で悪化しました(Griffiths 1990)。A2レベルでは98WPMが最適で、58まで落としても追加の利益はゼロでした(Chiu & Chen 2023)。実務的な床は100WPM、等速の0.65倍あたりです。それ以下に落としても買えるものがありません。
効いているのは減速そのものではなく、間のほうです。機械的に全体を遅くしても理解は上がらず、ポーズを入れると上がります(Blau 1990)。遅回しにするより、句の切れ目で0.3〜0.5秒止まる音声を選ぶほうが効率的です。
「ゆっくりの音声ばかりで練習すると、速い英語が聞けないままになるのでは」という心配はよく聞きます。実験の結果は逆でした。135WPMだけで10セッション訓練した群が、180WPMへの転移がもっとも良好だったと報告されています(McBride 2011)。ただし遅いところに居座ると、最終的には自然速で練習した群に負けます(Hayati 2010)。遅い素材と速い素材を混ぜた訓練が、いちばん広く転移しました(Hirata et al. 2007)。
上げどきの目安は、お手本の9割を口で再現できるようになったときです(Sumiyoshi 2019)。倍速については、1.5倍で練習した群が1.0倍・1.2倍・2.0倍の群を上回り、自然速での語の認識が改善しました(Yonezaki 2017、206名)。2.0倍は効きません。速ければ鍛えられるという話ではないようです。
回数と続ける期間
同じ素材のシャドーイング再現率は、4〜6回で頭打ちになります(Shiki et al. 2010)。7回目、8回目に得るものは少ないので、そこまで来たら速い音声版に切り替えるか、次の素材へ進みます。
1日15分で足ります。問題は期間のほうです。発音の自動採点を使った訓練を集めたメタ分析では、1〜4週で終わった介入の効果はほぼゼロ(g=0.07)でした(Ngo et al. 2024)。シャドーイングそのものの最小期間を測った研究は見当たりませんが、数週間で切り上げる前提は捨てたほうが安全です。
発音を直したいなら、別の訓練を足す
一音ずつの正確さは、シャドーイングの外側で鍛えます。この分野には40年近い蓄積があり、シャドーイングより結論がはっきりしています。
順番は、口より耳が先です。日本語話者に聞き分けの訓練だけを課した実験では、発音練習をまったくしていないのに、/r/ と /l/ の産出までネイティブ評価で改善しました(Bradlow et al. 1997)。3か月後にも知覚と産出の両方が保たれていました(Bradlow et al. 1999)。
いちばん実証が厚いのはHVPT(高変動の音声知覚訓練)です。複数の話者の声で、right と light のように一音だけ違う語のペアを聞き分け、その場で正誤を知る。これを繰り返します。79研究のメタ分析では知覚の効果量が g=0.92、効果は数か月保たれ、訓練に出てこなかった話者や単語にも般化しました(Uchihara, Karas & Thomson 2025)。話者は1人より複数のほうが確実に良い、という点も出ています。
鍛える音は絞ります。単語の区別に効いている対立(機能負荷の高い音)の誤りは理解を落としますが、小さい対立はほとんど影響しません(Munro & Derwing 2006)。日本人40名の発話を母語話者が評価した研究でも、通じにくさを実際に下げていたのは機能負荷の高い子音の置き換えだけでした(Suzukida & Saito 2021)。
| 優先度 | 音 | 理由 |
|---|---|---|
| 最優先 | /r/ と /l/ | 日本語話者の通じなさの代表。まず耳がボトルネックになる |
| 最優先 | /iː/ と /ɪ/ | sheep と ship。長さではなく音質の差 |
| 最優先 | /v/ と /b/ | 日本語に /v/ がない。実測で通じなさを壊している |
| 高 | /æ/ | カタカナの「ア」に潰れる。出現頻度が高い |
| 中 | /s/ と /ʃ/ | see が she に寄る。後ろの母音しだいで崩れる |
| 低 | /θ/ と /ð/ | 目立つが、通じるかどうかへの影響は小さい |
th を最後に置くのは直感に反します。ただ、これは研究の帰結です。目立つ音と、通じるかどうかを決める音は違います。
そして、説明を読むだけでは動きません。日本語話者の /ɹ/ を対象にした実験で改善したのは、調音の明示的な指導に修正フィードバックを足した群だけで、指導のみの群は音響指標で有意差が出ませんでした(Saito & Lyster 2012)。自分の音がどう外れているかを、その場で返してもらう仕組みが要ります。
どの音から直すか、なぜ耳から始めるのかは、日本人が苦手な英語の音と、直す順番にまとめました。/r/ と /l/ のように、音ごとの直し方も分けて書いてあります。
よくある失敗
- 最後まで文字を見ている。オーバーラッピングで終わっていて、シャドーイングに入っていない
- 素材が難しすぎる。追いつけない箇所を知識で埋めているので、耳は鍛えられていない
- 遅回しから上がらない。0.7倍に居座ると、その速さでしか聞けない耳になる
- 3回で次の素材に行く。頭打ちは4〜6回で、伸びるのはその手前
- 発音まで直ると思っている。r と l には別枠のドリルが要る
ShadoRep はこの手順をそのままアプリにしました。素材は素聴きで7〜8割拾える帯に刻んであり、同じ英文にゆっくり版と自然速版を用意しています。録音は音素単位で採点するので、r が何点で落ちたかまで出ます。一音ずつのドリルは、シャドーイングとは別枠に置きました。
よくある質問
- シャドーイングは1日どれくらいやればいいですか
- 15分で足ります。ただし週に数回を数週間続けることが前提です。発音の自動採点を使った訓練を集めたメタ分析では、1〜4週で終わった介入の効果はほぼゼロでした(g=0.07、Ngo et al. 2024)。1日の量を増やすより、短くても月をまたぐほうが効きます。
- 意味がわからない英文でも効果はありますか
- 落ちます。スクリプトを読んで8〜9割わかる素材が適正です。それより難しいと、聞こえた音を追っているつもりで、知識で穴を埋めているだけになります。
- 同じ素材は何回繰り返せばいいですか
- 4〜6回で再現率が頭打ちになるという報告があります(Shiki et al. 2010)。そこまで来たら、同じ回数を積み増すより、速い音声版に切り替えるか次の素材へ進むほうが伸びます。
- 速度を落として練習してもいいですか
- 0.85倍あたりまでは有効です。100WPM(およそ0.65倍)を下回ると、遅くした分の見返りがなくなります。ゆっくり練習したせいで速い英語が聞けなくなる、という現象は実験では確認されていません(McBride 2011)。
- シャドーイングで発音は良くなりますか
- リズムと抑揚は良くなります。r と l のような一音ずつの正確さについては、44研究のレビューでも結論が出ていません(Whitworth & Rose 2025)。聞き分けの訓練と、その場で外れ方を返してくれる採点を別枠で足すのが確実です。
- 初心者でもできますか
- 初級から中級がいちばん効く層です。ただし素材は160WPM以下に抑えてください。知らない単語だらけの素材で無理に続けても、耳は鍛えられません。
- 教材は何を選べばいいですか
- 何も見ずに聞いて7〜8割拾えるものです。ニュースの読み上げが150〜170WPM、ネイティブ同士の雑談は190〜230WPMあります(Tauroza & Allison 1990)。最初は読み上げ素材から入るほうが安全です。
参考文献
シャドーイング本体
- Hamada, Y. (2016). Shadowing: Who benefits and how? Uncovering a booming EFL teaching technique for listening comprehension. Language Teaching Research.
- Hamada, Y. (2019). Shadowing: What is It? How to Use It. Where Will It Go? RELC Journal.
- Hamada, Y., & Suzuki, Y. (2024). Situating Shadowing in the Framework of Deliberate Practice: A Guide to Using 16 Techniques. RELC Journal.
- Whitworth, N., & Rose, M. (2025). A Systematic Review of Research on the Use of Shadowing for L2 Pronunciation Teaching. Research Synthesis in Applied Linguistics.
- Kadota, S. (2019). Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition: Connecting Inputs and Outputs. Routledge.
- Shiki, O., Mori, Y., Kadota, S., & Yoshida, S. (2010). Exploring differences between shadowing and repeating practices. ARELE.
- Schmidt, R. (1990). The Role of Consciousness in Second Language Learning. Applied Linguistics.
速度と教材
- Tauroza, S., & Allison, D. (1990). Speech Rates in British English. Applied Linguistics.
- Griffiths, R. (1990). Speech Rate and NNS Comprehension. Language Learning.
- Chiu, T.-L., & Chen, H. H.-J. (2023). Effects of speech rate on L2 listening comprehension. Computer Assisted Language Learning.
- Blau, E. K. (1990). The Effect of Syntax, Speed, and Pauses on Listening Comprehension. TESOL Quarterly.
- McBride, K. (2011). The effect of rate of speech and distributed practice on the development of L2 listening comprehension. Computer Assisted Language Learning.
- Hayati, A. (2010). The effect of speech rate on listening comprehension of EFL learners. Creative Education.
- Hirata, Y., Whitehurst, E., & Cullings, E. (2007). Training native English speakers to identify Japanese vowel length contrast. JASA.
- Sumiyoshi, H. (2019). Shadowing with slow-to-fast speech rates. Electronic Journal of Foreign Language Teaching.
- Yonezaki, H. (2017). Effects of shadowing practice at different speech rates. ARELE.
- Henrichsen, L. E. (1984). Sandhi-Variation: A Filter of Input for Learners of ESL. Language Learning.
- Kaisse, E. M. (1985). Connected Speech: The Interaction of Syntax and Phonology. Academic Press.
発音(分節音)
- Bradlow, A. R., Pisoni, D. B., Akahane-Yamada, R., & Tohkura, Y. (1997). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: IV. JASA.
- Bradlow, A. R., Akahane-Yamada, R., Pisoni, D. B., & Tohkura, Y. (1999). Long-term retention of learning in perception and production. Perception & Psychophysics.
- Uchihara, T., Karas, M., & Thomson, R. I. (2025). High variability phonetic training (HVPT): A meta-analysis of L2 perceptual training studies. Studies in Second Language Acquisition.
- Saito, K., & Lyster, R. (2012). Effects of Form-Focused Instruction and Corrective Feedback on L2 Pronunciation Development of /ɹ/ by Japanese Learners of English. Language Learning.
- Munro, M. J., & Derwing, T. M. (2006). The functional load principle in ESL pronunciation instruction. System.
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- Ngo, T. T.-N., Chen, H. H.-J., & Lai, K. K.-W. (2024). The effectiveness of automatic speech recognition in ESL/EFL pronunciation: A meta-analysis. ReCALL.
- Levis, J. (2005). Changing Contexts and Shifting Paradigms in Pronunciation Teaching. TESOL Quarterly.